誰が言ったか令和のチャージマン研。岐阜県・関市(せきし)を主な舞台としている2025年3月公開の映画作品『名もなき池』が世間の注目を集めています。物議を醸しているという表現のほうが合ってる気もしますが、映画のクオリティが高かろうと低かろうと、関市が魅力あふれるステキな場所であることには変わりありません。
市からの補助金がどうだの、出演者に支払われるべきギャラがどうだのといったトラブルについてはいったん横に置いといて、ここでは映画に出てくるロケ地について詳しく紹介したいと思います。実は私、関市とは少なからぬ縁がありまして。

※当ページで使用している画像は全て筆者が撮影したものです。無断転載を禁じます。
※以下、ネタバレを含みます。ネタバレを望まない方は閲覧を中止してください。
名もなき池(通称:モネの池)周辺

関市・中心部から北西の方向へ、クルマでおよそ40分。映画のタイトルにもなっている「名もなき池」に到着です。あくまでも『モネの池』は通称であり、正式名称ではありません。

2016年撮影

2016年撮影
湧水を水源としているため不純物がほとんどなく、透明度が高いのが特徴です。日光の当たり方や季節によって、さまざまな見え方をします。2015年頃までは、まさに”名もなき池”だったんですけれども。全国ネットのテレビ番組でも紹介されるようになった2016年以降は『モネの池』として有名になり、ここを訪れる観光客が急増しました。
映画の冒頭、嵐子(らんこ・ヒロイン)と親友が登場するシーン

池に沿って直線的にのびる遊歩道でヒロイン・嵐子(清田美桜さん)がホウキを持ち、落ち葉の掃除(?)をしているシーンから物語が始まります。そこに高校の同級生であり親友でもある女の子(悠木紫真さん)が加わり、この池についての説明ゼリフを中心とするやりとりが行われます。
なんてことのない、2分だったか3分だったかぐらいの尺ではありますけれども。先行きが思いやられるというか、全体のクオリティを推し量るのに充分な情報が得られるシーンになっています。
ナゾの絵描きと出会うシーン

小さな橋が架かっている、整備された遊歩道。この付近で嵐子とナゾの絵描き(太田唯さん)が唐突に出会い、一緒に絵を描くなど親交を深めます。
この先おそらく、なんらかのシーン、なんらかのストーリーに絡んでくるであろうと予感させる女性の登場。案の定、のちに、この女性はホニャララであることが判明するのですが、判明したとて、なんですよ。本筋を補完する、いわばサイドストーリーに関わることになる女性なのですが、関わったとて、なんですよ。
唯一の救いは、太田唯さん(太田プロ所属)の演技がとても上手かったことです。滑舌がよく、セリフもハッキリと聞き取ることができました。今後の更なる活躍に期待したくなる魅力的な女優さんです。


ひとつのシーンを反対側からも撮る手法(リバースショット?)が多用されているように感じるのも、この作品の特徴でしょうか。もしかすると多用されているのではなく、セリフや映像のつながりが不自然なために、この手法が悪目立ちして、あたかも多用されているかのような印象を受けてしまうだけなのかもしれませんが。
嵐子がアルバイトしているお店のシーン

名もなき池の、すぐ近く。国道沿いに建っている観光客向けの店舗です。作中では、とくに具体的な説明なく、唐突に登場したように記憶しています。なので、アルバイトしているのかどうかを120%断言することはできません。もしかしたらセリフや演技で、それとわかるように表現されていたのかもしれませんけれども。なにしろセリフが聞き取りにくくて…。

この建物は『いろは風のとおり道』という名前のカフェを併設している「板取川流域観光案内所」です。実は、この観光案内所こそが、まさに兵庫県の「IROHA STANDARD社」が経営しているお店なのです。なぜ遠く離れた兵庫県の会社が岐阜県の映画を作ることになったのか?と疑問に思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、この場所でお店を経営している縁があってのことだったんですねえ。

SNS上では「岐阜県関市と無関係なはずの関西地方の会社が補助金目当てで映画を企画・制作した」と勘違いしている発言も見受けられますが、上記のように、関市と全く無関係な会社ではありません。

モネの池の近くを流れる川(板取川)の水も澄んでいて、ときに『板取ブルー』と呼ばれることがあるほどキレイです。
21世紀の森公園と思われるシーン

名もなき池から、さらに北上すること10分。関市が管理・運営している「21世紀の森公園」に到着です。朽ちた巨木の傍らで、ヒロイン・嵐子とナゾの女性が会話を交わします。


このシーンにおいては「蕪山登山道入口→」などの案内板が見えていたので、この場所でロケが行われたのは間違いないと思われます。ただし、撮影が行われたと思しき地点まではクルマで行けません。手前にある駐車場にクルマを置き、徒歩でアクセスすることになります。
こちらの公園は広大な敷地の中に森林学習展示館、森林体験実習棟、ハイキングコース、あじさい園などのほか、総合グラウンドやBMXコースもあるということです。
名もなき池周辺へのアクセス
クルマで名もなき池まで
・東海環状自動車道「山県インター」(※ETC専用)から国道256号線を北へ、およそ30分。
・関市中心部から県道を北西へ、さらに国道256号線を北へ、およそ40分。

路線バスで名もなき池まで
・JR岐阜駅から(※土曜休日ダイヤ)の一例
JR岐阜駅前(北口のりば12番/N83系統/ほらどキウイプラザ行き)
10:51
↓
(岐阜バス)
↓
11:59
ほらどキウイプラザ(板取門原行きに乗り換え)
12:05
↓
(板取ふれあいバス)
↓
12:21
モネの池前バス停
モネの池前バス停
13:49
↓
14:06
ほらどキウイプラザ(JR岐阜駅前行きに乗り換え)
14:21
↓
15:29
JR岐阜駅前
※平日は違うダイヤです
※SuicaやPASMO等は利用不可
※運賃は降りるときに払うスタイル

関市中心部周辺
関善光寺でのナゾ修行シーン

関市役所から南へ1kmぐらい。小高い山の中腹にあるのが天台宗の古刹・関善光寺(せきぜんこうじ)です。主人公(日本刀の刀匠)の弟子3人が「いい機会だから精神修行をしておこう」(?)とかなんとか言って、お寺で唐突に座禅修行をするシーンがあるんですけれども。

すぐに私は「ああ、関善光寺だな」とわかりましたが、映画を観ている人に対して、それをアピールするような説明的な映像やセリフはなかったように記憶しています。関市についての知識がない人にとっては、完全にナゾでしかないくだりになっているかもしれません。
ちなみに、なにかと比較されがちな映画作品『怪獣ヤロウ!』にも、ここ関善光寺が登場しています。ごく短めのカット×3回ぐらいですけれども。
自動車販売店(日産オートシェルジュ関)付近のシーン

かつて名鉄美濃町線が走っていた県道79号線沿いにある自動車販売店です。「関市内の、とある街角」のテイで、ここのバックヤード的な駐車場スペース付近においていくつかのシーンが撮影されています。これは関シミンであっても、ほとんど気付かないかもしれません。

すぐ近くに刀匠「25代藤原兼房」氏の鍛錬場(赤く熱せられた玉鋼をトンテンカンする場所)がある縁で、ここがロケ地として選ばれたものと推測されます。

唐突に(唐突ばっかり)、刀匠である主人公(伊達直人さん)のもとに弟子3人がデリバリーされるのですが(されるんだってば)。その迷シーン(断じて名シーンではない)の撮影も、この付近で行われています。映画を観たあとにココを訪れれば、すぐにピンとくるはずです。
嵐子と市役所職員(宮川一朗太さん)が夜に川沿いの小道を歩くシーンも、この付近です。鍛錬場内のシーン(尺八と和太鼓?の爆音SEがマストで響き渡るからセリフが聞き取れないでおなじみ)などを含めると、映画全体の1/5ぐらいは、この自動車販売店付近で撮影が行われたということになろうかと思います。
関市立関商工高等学校
一発で読めた人、います?
せきしりつせきしょうこうこうとうがっこう……商業科と工業科が置かれている、関市内にある高校です。岐阜ケンミンは、ほぼ100%「関商工」と略して呼びます。ちなみに俳優の綾野剛さんとタレントの熊田曜子さんが主な出身者としてよく知られています。
映画内では、嵐子が入部する美術部のシーンに使われています。あの、新入部員に対する◯◯◯が唐突に勃発する問題のシーンです。この映画を代表する「超展開」のひとつと言っていいでしょう。
このくだり、必要か?と疑問に思わないこともないんですけれども。こうなってしまった今となっては、このくだりがなければ名もなき池じゃない!と言い切ってもいい気がしてくるから不思議なもの。このくだりがあるからこその名もなき池なのです。

関市以外のロケ地
この映画、なにげに関市以外の場所でも撮影が行われておりまして。なんでわざわざ関市以外で?関市でも同様のシーンが撮れたんじゃね?と思ってしまいたくなるところですけれども。
私なりの考察を加えつつ、関市以外のロケ地を紹介します…
山県市「みのや食堂」


岐阜県・山県市(やまがたし)の高富地区にある「みのや食堂」さん。嵐子と親友の2人が、まるでマンガメシのような山盛りのカツ丼を食べるシーンに登場します。地元ではよく知られた有名店で、旅番組やグルメ番組で紹介されることも多い老舗の大衆食堂です。

店内にはテーブルが9つぐらいあるのですが、運良く(?)嵐子たちが座っていたのと同じ、店内中央のテーブルに案内されました。ほぼ満席でお客さんがたくさんいらっしゃったので、店内風景をカメラに収めるのは遠慮しておきましたが。
各テーブルにヤカンのお茶が置かれていて、セルフで注いで飲むスタイルです。昭和のフンイキに包まれながら、カツ丼の並盛りを注文します。
え?
嵐子たちが食べたのと同じ、大盛りを注文しないの?
と思われるかもしれませんが…
ドーン

これで「並盛り」なんすよ。嵐子たちが食べていたカツ丼と、見た目が全く一緒です。
初心者さんは要注意。並盛りを注文しても大盛りが出てきてしまう店として、東海エリアで超有名なんです。


どんぶりのフタを取り皿として利用するよう推奨されているのは、福井県のソースカツ丼専門店「ヨーロッパ軒」と同じスタイルです。

大盛りは並盛+100円。たったのプラス100円だから大盛りにしておこうなんて思ったら、とんでもないことになります。超デカ盛りが出てきてしまうのです。
このシーンには「ナゾの大食い女」が登場するのですが、この大食い女を登場させるために”大盛り食堂”をロケ地としてチョイスしたのか。あるいは、たまたまロケ地としてチョイスしたのが”大盛り食堂”だったので、その連想から大食い女を登場させる脚本にしたのか。
この食堂は岐阜市とモネの池を最短で結んでいる国道256号線沿い(食堂は、ちょっとだけ脇道に入ったところ)にあるので、おそらくモネの池のロケと同じ日に撮影したのではないかと推測します。距離的に、関市の中心部からよりも、こっちの山県市のほうがぜんぜん近いんすよ。
いずれにせよ、この”大盛り食堂”のくだりは関市で撮影するよりも、山県市で撮影したほうがもろもろ都合がよかったんじゃないのかなーと。
それらをひっくるめて、もしも全てがAIの判断だったとしたら大したもんですよ。AIおそるべしですよ(たぶん違うと思うけど)。

・岐阜県山県市高富1340
・営業時間…11:00~14:30(ラストオーダー14:00)/17:00~20:00(ラストオーダー19:30)
・店休日…日曜と月曜と祝日はお休み
・備考…GW中の営業日は未定、検討中だそうです(店員さん談)
岐阜市「岐阜天文台」

岐阜市の南部、合併するまで柳津町(やないづちょう)だった場所にあるのが「岐阜天文台」です。おそらくなんですけど、「なにかあると決まって嵐子が訪れ、星を眺めて気を休める場所」「そんな嵐子を、いつも生暖かい目で見守る館長」みたいな設定だったのではないかと推測します。…が、そうとわかる描写やセリフは記憶に残っていません(もしもあったらゴメンナサイ)。なんとなく、唐突気味に天文台が登場するんですよねー。嵐子が美術部ではなく天文部に入部したとかだったら、まだギリで意味があるのかな、と思うんですけれども。


1970年・日本光学工業株式会社(現・Nikon)製の大きな望遠鏡
天文台の館長(大女優の熊谷真実さん)が嵐子に隕鉄(鉄分を多く含んでいる隕石)を託し、これで立派な日本刀を作ってネ、って。
これで立派な日本刀を作ってネ、って。
正確なセリフ回しは忘れてしまいましたが、なんか、そんなくだりだったと思います。

天文台の正面玄関。館長が、ここで嵐子を見送ります。
立派な日本刀を作ってネ、って。
貴重な隕鉄で。
どうですか?
映画を観たくて仕方なくなってきたでしょ?
・岐阜県岐阜市柳津町高桑西3丁目75
・一般公開は毎月、第一土曜と第三土曜のみ(受付18:00~21:00)
岐阜市「丸福寿司」
岐阜市と大垣市を結んでいる旧国道沿い。まあまあ大きな寿司・和食のお店です。
主人公が資金繰りに苦労しているのに乗じ、鍛錬場を乗っ取って自分たちのものとするべく、悪い組織のトップ(大ベテラン俳優の五代高之さん)と幹部社員たちが食事をしながら策をめぐらせる場所として登場します。
いいアイデアを思いついたゼ(ただし、ジュラル星人並みに回りくどい)、作戦成功の前祝いでカンパイだゼ、というタイミングで店員さんが生ビールのジョッキをテーブルに運んできて(タイミングが良すぎるのも見どころのひとつ)、カンパーイとなります。
後世に語り継がれるであろう「ビールをテーブルに置くときの音ズレ」は、ここらへんで発生すると言われています。いや、実はですね私、このときの音ズレがよくわからなかったんですよね。
すでに物語が後半に差し掛かかり、音ズレに慣れすぎてしまっていた可能性があります。脳内で勝手に修正されていたか、あるいは、音ズレなんてどうでもよくなるぐらいに超展開が連続し、いろいろマヒしていたのかもしれません。
場所が「岐阜天文台」のすぐ近くなので、関市ではなく、ここで撮影したほうが段取りがよかったのかな?と推測します。
大ベテラン俳優の五代高之(ごだいたかゆき)さんですが、この芸名の名付け親は石原裕次郎さんです。
・岐阜県岐阜市日置江5丁目72
・営業時間…11:30~14:00/16:00~22:00(ラストオーダー21:00)
・店休日…毎週木曜お休み
ロケ地不明
現時点でロケ地が特定できていないシーンもあります。
囲炉裏のある古民家
主人公と関市役所の職員(宮川一朗太さん)が囲炉裏のある和室で会話をし、資金繰りの悪化に窮する鍛錬場を立て直そうぜとグータッチするシーンなど、何度か登場したように記憶しています。
まだ断定はできていないものの、もっとも可能性が高いのは岐阜県大垣市墨俣町にある『すのまた宿池田屋脇本陣・古民家再生ショールーム』ではないかと思い始めています。背後に映り込んでいる引き戸の意匠が、ものすごく似ているのです。
また、もしも『池田屋脇本陣』だとすれば、すでに特定されている「岐阜天文台」や「丸福寿司」とは至近距離に位置するため(長良川にかかる大きな橋を渡ってすぐのところ)、その点からも納得できるロケ地だということになります。
主人公が病に伏せる、腰から上が可動する構造のベッドがある部屋
過労で倒れた主人公が、寝込む部屋があります。もしかしたら囲炉裏のある古民家と同一の建物の可能性もあるのかなと思いますけれども。
特筆すべきは、野口五郎さんっぽい見た目の医者(半田健人さん演じる野口医師)のセリフ回しが、とてもいい感じだったこと。さすがにこれはAIが生成した脚本じゃないと思うんですよね。半田健人さんが現場で思いついたのか、あらかじめ準備していたのかはさておき、100分間の映像作品中で唯一、「血の通ったセリフが聞けた」と思える瞬間でした。半田健人さん、さすがプロです。
さいごに
思いのほか豪華なキャスト、思いのほか手間をかけて撮影されている各シーン。「たった2000万円で作れる内容じゃない(もっとコストがかかっていてもおかしくない)」というのが率直な感想です。
フラットな目で映画を最後まで観れば、制作者の側に「補助金目当てで手抜き映画を作って儲けようぜ」という意図など、みじんもなかったであろうことがわかるはずです。みじんも、です。少なくとも企画書を関市に提出して補助金の交付が決まった初期段階では、かなり純粋に「関市の観光PRに貢献したい」「なんとなく私たち、いい映画が作れそうな気がする」という感情があったのではないでしょうか(あくまでも推測だけど)。
もちろん、途中で監督が交代したり、関市からの問い合わせに対して誠実に応じなかったり、ギャラの支払いで出演者とモメていたりといった具合に、あやしいニオイがプンプンするのも否定できません。
とはいえ、です。繰り返しになってしまいますが、この作品は「補助金目当てで作った手抜き映画」ではありません。ただただシンプルに、シナリオ・脚本の才能がなかっただけ、映像制作のノウハウが足りてなかっただけなのです。
あまりにも脚本がアレなので、さすがに『カメラを止めるな!』ほどの大ヒットは望めないものの、もしもこの先、東京などの大都市で公開されるようなことがあれば、関シミンが投じた2000万円の税金がムダにならない世界線も大いにありえると思います。あるいは、課金すればオンライン上で観れるようになったりだとか。
そんな”超展開”を期待しつつ。