【大正時代・スペインかぜの啓発ポスター×8枚が語るもの】後手に回った新型コロナウイルス対策について改めて考えさせられる

スペインかぜ啓蒙ポスター

NHKの公式サイトによれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について日本国内で初めて報じられたのは2020年1月6日のこと。ただし、その内容は「中国武漢で原因不明の肺炎 厚労省が注意喚起」というものであり、まだ「新型コロナ」という言葉や考え方は誰ひとりとして頭になかったはずです。

「新型コロナ」という言葉がNHKのニュース報道に初めて現れるのは2020年1月14日。「WHOが新型コロナウイルスを検出」と報じたものです。同時にWHOは「限定的だがヒトからヒトに感染する可能性がある」と発表。「可能性もなにも、思いっきり感染しまくりじゃん」と今なら総ツッコミを浴びてしまいそうな内容ですが、当時の認識は専門家も含め、まだそんな程度だったのです。

さらにその後、2020年2月から3月にかけて専門家が「どうやらマスクが感染防止に有効らしい」と言い始めたものの、あまりに急で国民も業界も準備ができていなかったため、コンビニやドラッグストアなどでは極端な品薄状態に。

そうした状況を受け、安倍晋三首相(当時)が「全世帯に布製マスクを2枚ずつ配布する」と発表したのが2020年4月1日でした。しかし、配布されたマスクのサイズや素材が納得できるものではなかったため、実際に使用した国民は少数にとどまりました。なぜ専門家に事前にアドバイスを求めなかったのか、あるいは求めたにもかかわらずの結果だったのか。いずれにせよ、いろいろ残念なことになりました。

細かく追跡していくとキリがないのでこれぐらいにしておきますが、つまり何が言いたいかというと、専門家ですら対策・対応が後手に回っているということです。飛沫が拡散しにくいマスクの形状や素材について、今さら実験をして確かめていましたからね。いわんや政治家をや、いわんや国民をやです。

「新型ゆえに、よくわからない部分が多い」「何が有効で、何が有効でないか、確かなことが言えない」というのも分からなくはないけれど、本当にそうでしょうか。

国立保健医療科学院・図書館(厚生労働省所管の組織)の公式サイト上に、「スペインかぜ」の流行を受けて内務省衛生局(のちの厚生労働省)が作成した啓発ポスター(啓蒙ポスター)が紹介されていたので、この機会にぜひ多くの方に見ていただきたいのです。

「スペインかぜ」が世界的に流行したのは1918年~1920年(大正7年~大正9年)で、ポスターが作成されたのは1922年(大正11年)頃だということです。COVID-19の発生・流行から振り返って、およそ100年も前。すでに、これだけの知見があったのだと驚かされます。

マスクなしでの咳

スペインかぜポスター

「テバナシ」に「セキ」をされては堪らない(たまらない)

「ハヤリカゼ」はこんな事からうつる!

よく見ると、大人の女性の肩に乗っているウイルスさん(?)が持っているうちわに「流行感冒」と書かれています。ウイルスの尻尾の先が「矢印」になっていることから、悪さを働く元凶としての悪魔的なものとして描かれていることもわかります。

とっくの昔の100年前から、マスクなしでの咳(飛沫の拡散)が感染を広げるということが明らかだったわけですね。

 

人混みの中でのマスク未着用

スペインかぜ啓発ポスタ

汽車・電車・人の中では「マスク」せよ

外出ののちは「ウガヒ」(うがい)忘れるな

「マスク」とうがひ(うがい)

鉄道車両の座席でマスクなしに咳をしている男性。そのとなりには、したり顔で『「マスク」をかけぬと…(流行感冒にかかって熱を出すことになるよ)』と言いたげな男性。

(あんたもや!とツッコミを入れたくなるけどガマンガマン)

今回の新型コロナウイルスでは、日本国内で感染者が出始めてから国民全体がマスクの重要性に気づくまで、微妙にタイムラグがありましたけどね。100年も前からわかっていたのであれば、ニュース番組やワイドショーに呼ばれた専門家はもっと初期の段階から強く、もっともっと強く、「まだ不確かなことも多いけど、念のためマスクをしておいたほうがいいですよ」とコメントしてもよかったのではないでしょうか。軽くではなく、強くですよ。

あと、女性のかけている黒マスクが、なんとなくいかつい感じ。

 

マスクをかけぬ命知らず!

スペインかぜ

恐るべし「ハヤリカゼ」の「バイキン」!

マスクをかけぬ命知らず!

バイキン(ウイルス)の飛び散り方が怖いですね。バイキン(ウイルス)が点ではなく線で描かれているのも、それなりの意図・イメージがあってのことでしょうか。

「マスクをかけぬ命知らず!」というのは、そうとう強いメッセージです。100年前ですらここまで強い言葉を使っているのに、現代の専門家(医師)や政治家は、あまりにも冷静すぎるのではないでしょうか。収入に余裕があるであろう専門家(医師)や政治家の皆さんは、明日の食べものにも困る、来月の家賃支払いのメドが立たない、ケータイを止められた、といったギリギリの経験をしたことがないからかもしれません。

朝一番30
すみません、言葉が過ぎました

 

感染者は隔離

スペインかぜ

悪性感冒・病人はなるべく別の部屋に!

病(やまい)の敵の宿にある間は親と子の居間を隔てて身を守れ

縦屏風(ついたて)の陰から、そ~っと食事を置くような動作。まったくもって現代と一緒です。隔離の重要性は、とっくの昔からわかっていたということですね。

 

うがいせよ

スペインかぜ

含嗽(うがい)せよ

朝な夕なに

朝な夕なに(あさなゆうなに=朝とか晩とか関係なく常に)というのが、いかにも啓蒙ポスターらしい表現です。

傍らの子供が口と鼻をふさいでいるのは、うがいのときの飛沫を吸い込まないようにするためでしょうか。ちょっとよくわかりません。

 

早めの手当て

スペインかぜ啓発ポスター

流行性感冒?

手当てが早ければすぐ治る

重症化する前に早めに治療をしたほうがよい、という意味でしょうか。あるいは現代に置き換えると「早め早めのPCR検査」「定期的なPCR検査」ということになるかもしれません。

 

予防注射

スペインかぜ予防接種

予防注射で宿のなくなる風乃神

「風の神」は「風邪」(ふうじゃ=風邪・カゼ)です。お泊りセットを抱えていますね(苦笑)。

当時の予防接種は背中に注射を打つのが一般的だったんでしょうか。

 

予防注射と日光消毒

スペインかぜ

日光の直射と医者の注射には疫病神も負けてクシヤクシヤ

予防注射と日光消毒

「クシヤクシヤ」は、おそらく「くさくさ」(=イライラする気分、晴れない気持ちになるさま)でしょうね。

描かれている内容を見てみると、やはり当時の予防接種は二の腕ではなく背中に注射をするのが一般的だったのでしょう。

いろいろ検索をかけてみましたが、スペインかぜについては絶対的に有効なワクチンが開発されたわけではないようです。とはいえ、ちょっとだけ効果があったりなかったり。それなりの「予防接種」が日本各地で行われた記録が残っているとのこと。

また、8枚のポスターに「手指消毒」「アルコール消毒」といった文言は含まれていないので、まだ、そこらへんの知見はなかったようです。

 

おわりに

スペインかぜの世界的な流行から100年。医療分野の進歩にはめざましいものがあったんだろうと思います。しかし、国民が取るべき行動、持つべき心構えについてはどうでしょう。これらのポスターを見る限り、ほとんど何も変わっていないのではないでしょうか。

誤解を恐れずに言えば、ウイルスが「新型」だろうと「旧型」だろうと、あんまり変わらないということです。

みなさんは、どうお感じになられましたでしょうか。